
A君は高校1年の冬、物理の計算に大きな基礎の揺らぎを抱えていました。
短期記憶の強さで定期テストを乗り切る一方、模試では伸び悩みます。
難問ではなく標準問題と基礎の反復を徹底し、迷いを繰り返しながら二浪目で合格をつかむまでの記録です。
高校1年の冬、最初に感じた違和感
A君との物理の授業が始まったのは、高校1年の冬でした。
物理の問題を解いてもらったとき、私はすぐに違和感に包まれました。計算が合わず、式が途中で途切れ、思考の流れがどこか不自然なのです。
「1/2+1/3」を「1/5」と書いたとき、A君は自分でもどこかおかしいと感じ取った様子がありました。しかし、そのまま進もうとします。
その表情の裏に、数字を「感覚」で扱ってきた長い時間が隠れていることを直感しました。

高校2年で見えてきた、基礎学力の揺らぎ
高校2年に進むと、数学・化学・情報も担当するようになりました。そこで見えたのは、さらに深い基礎の揺らぎでした。
A君は訝しげに式を展開します。しかし、その多くが小中学校で学ぶ基本規則から外れていました。
私は何度も手を止め、「なぜその計算ではいけないのか」を一つひとつ丁寧に確認しました。
A君は真剣にうなずきながらも、苦しそうな表情でした。
今まで計算過程を見てもらったことがないのですが、こんなに一行一行きちんとするんですね
初めての感覚に、戸惑っていたようです。
数式を見たときに、その背景や意味をつかみながら進めることが新鮮だったのでしょう。

文系科目では発揮できる力が、理系科目では生かせない
A君はもともと、物事を俯瞰的に見る能力が非常に優れていました。
文系科目をあまり学習していなくても、文章や情報の全体像をうまく捉えることは得意なようでした。しかし、理系科目になると、その能力が陰を潜めます。
困ったときに、たとえ非論理的であっても、なんとなくそのまま進めてしまう危うさが随所に見えました。

定期テストの点数が隠していた「学力の穴」
それでも、学校の定期テストでは平均以上の点数を取ってきます。
A君は記憶力が良く、理解が浅くても、覚えることで点数を取れてしまうのです。
一方で、模試では点数が伸びません。
周囲は「現役で医学部に行けるよ」と軽く言います。
その言葉が、A君の足元に広がる「学力の穴」を覆い隠し、A君自身も自分の実力を錯覚していました。
現役合格が厳しいという現実を伝える
現役合格は厳しい。
私は覚悟を決め、早い段階でその現実を伝えました。
A君は静かにうつむき、しばらくしてから、小さな声で答えました。
やっぱりそうですよね

その声には、苦しさと決意が入り混じっていました。
浪人する可能性を家族も受け入れてくれたことは、不幸中の幸いでした。
学校の試験に必要以上に振り回されず、基礎学習に集中することができたからです。
短期記憶の鋭さは、武器であり弱点でもあった
A君には、一つの武器がありました。短期記憶の鋭さです。しかし、それは同時に弱点でもありました。覚えられるからこそ、復習を軽視してしまうのです。
そこで私は、問題集に印をつけながら繰り返し解く方法を実践するように説明しました。
1周目、2周目、3周目……そして10周目。
ページの端に増えていく印は、A君が積み上げてきた時間そのものでした。
10周目は「終わり」ではありません。
「まだ途中だ」という意識を持ちながら、できない問題を一つずつ消していく。
その姿は静かでしたが、確かな成長の証でした。

難問ではなく、標準問題で勝負する
医学部受験といえば、難問対策が重視されがちです。しかし、福岡大学や久留米大学を目指すのであれば、勝負になるのは標準問題です。
私たちは最後まで、その方針を崩しませんでした。
学校や予備校で応用問題が扱われるたび、A君はそちらに引き寄せられそうになります。
そのたびに私は方針を確認し、学習の軌道を元に戻しました。

化学が得点源になるまで成長
努力は、確実に実を結び始めました。
特に化学では、無機化学や有機化学を得点源にできるほど成績が安定しました。
化学だけは現役で戦える

そう感じられるレベルにまで到達したのです。
一浪目に再び陥った迷い
しかし、一浪目に入ると、A君は再び迷いに飲み込まれます。
得意だと思っていた化学で難問に手を出し、基礎をおろそかにしたことで、成績が落ちる時期がありました。
A君は申し訳なさそうな表情を浮かべながら、悔しさをかみしめていました。
模試の結果を見せるのがつらいです……

私は、もう一度伝えました。
基本に戻りましょう
何が本当に大切なのかを、改めて確認しました。
二浪目も続いた、新しい問題集への迷い
二浪目に入っても、迷いは続きました。
見えないところで新しい問題集に手を出しては、中途半端に終わってしまう。
そして、「やっぱり基本が大事だ」と戻ってくる。
その繰り返しの中で、A君はようやく「基礎を徹底する意味」を少しずつ理解していきました。
二浪目でつかんだ医学部合格
そして迎えた、二浪目の受験と合格発表。
合格しました!

A君は、ほっとした表情で合格を報告してくれました。
その瞬間、長い長い時間が、一気に報われたように感じました。
A君の受験が教えてくれたこと
A君の受験が教えてくれたのは、「できない」のではなく、「できるようになるまでに必要な時間は人それぞれ違う」ということです。
チャート、基礎問題精講、セミナー、リードα。
これらの問題集を、本当に身につくまで繰り返し取り組める人は、決して多くありません。
友達の学習ペースを見て、戸惑うこともあるでしょう。しかし、大切なのは、自分に必要な学習を見極め、基礎を積み重ね続けることです。
A君の歩みは、そのことを誰よりも強く示してくれました。
この記事の投稿者

長濱先生 指導歴25年
指導科目:小学生:全科目
中学生:全教科、高校生:高校 数学・物理・化学・生物・情報・英語・現代文・小論文
合格実績:長崎大(医)、久留米大(医)、福岡大(医)、京都大、福岡県内各高校など


























