こんにちは、久留米校の鹿野耕平です。日本で有数の影響力を持つ教育ジャーナリスト、おおたとしまさ氏も「非認知能力」についての書籍を発刊しました。ブログによると、「幼児教育にお金をかければ非認知能力が高まって、将来の年収が増えるかのような幻想がひろまっ」て「メディアからやたらと非認知能力についての問い合わせが入る」そうです。氏はこれを「非認知能力という概念がインフレーションを起こしている」状況と述べます。
こうした社会不安には背景があります。その一つは、10~20年後に日本の労働人口の49%がAIやロボットで代替されるという可能性を提示した、野村総合研究所とオックスフォード大学のフレイ&オズボーンとの共同研究でしょう。ホワイトカラーの一部がそれに含まれることから、学歴や認知能力を問う従来の試験制度にまで不信が広がっているのでしょう。
さて、「こどもまなび☆ラボ」の記事を取りまとめた本書は、各界の第一人者の寄稿を包括しており、おおた氏が『ビッグロック(最初に取り入れるべきもの)』となる一冊というのもうなづけます。しかし、非認知能力が求められる根源的な不安に応えられていないため、そこで書かれているアドバイスでは物足りなく感じる方もいるのではないでしょうか。そこで、日頃からご家庭で認知能力・非認知能力の向上のお手伝いをしている家庭教師として、この課題にどのように取り組めばいいか、より具体的にお伝えしたいと思いました。
私からのアドバイスは以下の3点です。
1.非認知能力のうち、どれを伸ばしたいのか明確にしましょう。
2.どのアドバイスを参考にしたのかメモしておきましょう。できれば、その根拠を抑え、依拠したデータや論文は保管しておきましょう。
3.子育てに正解・不正解はありません。血縁が親子の第一の絆だとしたら、教育という第二の絆にもその親子らしさがあっていいのではないでしょうか?
1.非認知能力の分類は論者によって様々です。OECDは「他者とつきあう力、感情を管理する力、目標を達成する力」の3種に大別しています。15種類に分類するものもあります。「人見知りな子」「癇癪持ちな子」「習い事が続かない子」などお子様の気になるところに応じて、一つのテーマを深めたり、ご相談頂くのがいいかと思います。たとえば、私が担当した事例だと、当初「就学前に文字が書けるようになって欲しい」と認知能力の相談がありました。拒絶反応が現れるようになると、保護者様から「一つのことをできるだけ長く集中できるようにしよう」と非認知能力に焦点をあてた提案があり、現在は大きく前進しています。
2.教育情報も増えていますが、非認知能力のほぼ全てが心理学の概念であり、その背景には大小様々な実験があります。中には矛盾した結果が出ることもあれば、新しい研究が過去の研究を否定することもあります。例えば、音楽教育は認知機能を強化するという研究は様々ありましたが、メタアナリシスではこの結論は否定されました。常に論文を隅々まで読んでおく必要はないと思いますが、実験の手法や依拠したモデル、結論、まだ明らかにされていない点が参照できるように、自分が依拠した主張の根拠を抑え、引用や参照文献を控えておくのがいいでしょう。
- 非認知機能の向上を図った新しい教育が現れています。しかし、最終的には本人や保護者の好みで決めていいのではないでしょうか。非認知能力は決してバラバラに独立した能力ではなく、高めあったり、相反したり、連動したりします。おおた氏が言う通り、認知機能を競う受験勉強を通じても非認知機能は得られます。獲得する道のりは一つではなく、また就学前に限られるわけでもありません。そして、受験制度は5〜10年のスパンを通じて緩やかに変化していきます。心理学の知見を活用しつつ、必要な非認知機能を一つ一つ高めていくことで、国家と資格に代わる安定の基盤が得られるのではないでしょうか。