臨床心理学科を卒業した私には、対応が難しいケースについて、相談されることが多くあります。
ここでは、「心理学部卒の人間が、大学で学んだことを家庭教師としてどのように実践しているのか」についてお話しさせて頂きます。
将来、心理学を学びたいと考えている学生の方にも、参考になれば幸いです。
◯傾聴
相手に、「この人には、もっと話したい」と思ってもらえる聞き方が、傾聴にあたります。
これは、心を開きづらいタイプの生徒だけでなく、全ての生徒、保護者の方に向けて、意識的に行なっています。
・適度なあいづち(相手の言葉が切れるタイミングで、適度な音量、頻度で行う)
・適度なうなずき(理解や共感、同意を示す)
・話している相手の目を見る(相手が逸らしたら、こちらも逸らす)
・相手の話の要点を、オウム返しする(例: 相手「それが頭にきたんですよ。」→私「それが頭にきたんですね?」)
・相手を労わる言葉を返す(例: 「それは大変でしたね。」「よく頑張りましたね。」)
これらを組み合わせることで、「この人は私の話を聞いてくれる」という感覚を抱かれやすくなり、また、実際に話してみると、共感、肯定、労わってもらえることで、さらなる信頼を生みます。
傾聴はどのような職業においても有効な手段と言えます。
◯生徒の「準拠集団」の把握
準拠集団とは、社会学・社会心理学の用語で、「自分の人生が幸せかどうかを、比較するための集団」と私は捉えています。
大人の皆さんも、心の中に、比較対象となる存在がいるのではないでしょうか?
普段は意識していなくても、例えば高校の同窓会に行った際に、「あの人があんなに出世したんだ!」と憂鬱な気持ちになったりするのも、同じくらいの偏差値で入学した高校の同級生が、あなたにとって準拠集団の1つであるから、と言えます。
比較・競争に日々さらされ続ける学生にとって、準拠集団はモチベーションの大きな要素であるとともに、挫折の要因でもあります。
準拠集団の設定がその生徒の現状と合っていない場合には、より現状に合った集団への変更を促すようにしています。
私「誰か、この人には勝ちたい、と思う人はいないの?」
生徒「特にいないですね。ただ、毎回5位以内に入っている◯◯は、昔は僕より全然勉強できなかったんですよ。」
私「今は勝てない?」
生徒「そうですね。あ、でも、前回は数学は3点差で負けたんですよ。」
私「惜しいね。次回、数学だけでも勝てるんじゃない?」
生徒「そうですね。理科も4点差だったんで、理科も勝ちたいです。」
このような会話を通して、「自分の現状より少し上」の競争相手を見つけることで、変わっていく生徒を多く見てきました。
◯描画テストの利用
生徒の内面を知る上で、「統合型HTP」という描画テストを用いることがあります。
この描画テストは、今年話題になった映画、『変な家』の原作者である雨穴さんの別の著書、『変な絵』にも登場します。
方法はシンプルで、横長のふせん(※本来はA4の紙を横長で利用)に、「人、家、木」を描いてもらいます。
解釈として、人は「自己イメージ」、家は「家庭環境」、木は「無意識の自己」などを表しますが、私は主に「人と家の関係性」に着目します。
例えば、大学進学に伴う上京を控えているある高校3年生は、中央に家を描き、人はその家から画面の「右側に向かって」歩いていました。
右側は「外的世界=社会」を表すため、「家を巣立ち、新たな世界に飛び込んでいく」覚悟が感じられる絵でした。
他には、家族に不満を持っているある生徒は、画面の中央には「複数の友人と遊ぶ人」を描き、家は左側に小さく描きました。
これは、事前にその生徒から聞いていた「家族への不信感」「友人と遊ぶ時間が唯一、楽しい」という話と一致しており、切実な思いを抱いていることが分かりました。
「人、家、木を描くだけだと、みんな同じ絵になるのでは?」という疑問を抱かれることも多いのですが、実際には生徒によって全く異なる絵になり、様々な気づきを与えてくれます。
もちろん、私は専門家でなく、カウンセリングを行うわけでもないため、ふせんという簡略化した形で行い、また、ナイーブな生徒には行わないようにしています。
あくまでも生徒をよく知るためのコミュニケーションの一環として行い、その後の接し方に活かしています。
◯まとめ
「心理学を家庭教師にどのように活かしているか?」について、今回は3点、お話しさせて頂きました。
「大学で心理学を学びたいけれど、就職が大変かな?」と思われることも多いのですが、「相手を理解する」技術を身に付けることは、どんな仕事にも活きる力になります。
また、成績不振など、お子様のことで様々な悩みを抱えている保護者の方におかれましては、しっかりとお子様に寄り添って理解し、お子様に合う解決策を実行していく家庭教師も、ぜひご検討くださいませ。