AI時代に家庭教師はどうあるべきか。
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は、論文「あと10年でなくなる仕事」で、既存の仕事の約半分がAIに取って変わると予測しました。また、デューク大学の研究者キャシー・デビッドソン氏は、2011年8月のニューヨークタイムズ紙インタビューで「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」と語っています。
このように、テクノロジーの進展は社会を変え、その社会ではまた要請される仕事も変わってきます。そして、それに伴い、職業教育や労働者に求められる能力も変化していくことが予想されます。さて、家庭教師といえば古くからある仕事の代表ですが、私たちはこの変化にどのように対応していこうとしているのでしょうか。今回はこの説明に努めたいと思います。
私たちの答えは変わりません。これまでやってきたように、また温故知新を厭わず、「生徒様と保護者様のニーズにしたがって、ベストなものを提供し続ける」です。絶版になってしまったが定評のある参考書を紹介し、入手困難な過去問・市販されていない塾用教材を入手し、本当にその子にあった良い教材を使用する。そうした条件が満たされなければ、個別指導の良さは活きてこないと思います。今回はその条件を満たしたAI教材を2点紹介いたします。
GPT-3を用いたAI会話パートナーEmerson
1つ目は、最近私が生徒様にご紹介することが多いEmersonです。2022年11月に公開され教育界にとっても大きな衝撃を与えたチャットGPTの前のバージョン、GPT-3を用いた英会話・英作文用のアプリです。
チャットGPTとは対話式のAIです。質問を入力すると、わずか数秒でAIが自動で文章を生成して回答してくれます。内容には不正確なところもありますが、会話の流れとしては極めて自然です。語学学習目的に調整されたAIと英語で会話するように促しています。私も毎日「たまごっち」を育てるような気分で、AIの質問に答えては、反応の変化を楽しんでいます。生徒たちも、個人差はありますが、たどたどしい英語で恐る恐る何か声をかけてくれているようです。早い段階で触れておくことで、近い将来どのようにAIと共存していくのかヒントをくれることになるでしょう。
チャットGPTは算数の計算だけでなく、エッセーやレポートなどを自動で作成することも可能で、ニューヨークやシアトルの教育委員会やパリ政治学院は試験での使用を禁止したほどです。また英語の共通テストは77%正解し、平均点を上回りました。探求学習型の課題であっても、AIが瞬時に出す解答でまずまずの評価が得られることがわかっています。
今後、人間性とは何なのか、人間にしかできないことは何なのかますます問われることと思います。私は、クリエイティビティを得点化する方向で進むのではないかと考えています。
あるいは、求められる知識や能力や、それを測るための試験は何も変わらないのかもしれません。辞書や電卓、ワープロといった過去のテクノロジーが現れてからも、漢字の読み書きや計算といった試験は何も変わりませんでした。AIが登場しても、同様の事態が起こる可能性があります。
記憶定着のためのサポートツールMonoxer
2つ目はMonoxerです。Monoxerとは、記憶の定着をサポートする学習ツールです。チャットGPT以外にも、アルゴリズムや画像解析、深層学習を活用したさまざまなEdTech (教育Education× テクノロジーTechnologyを組み合わせた造語で、教育領域にイノベーションを起こすビジネス、サービス)は活発にリリースされており、生徒様に合ったものをご案内したり、導入しています。現在、私はmonoxerを復習のための小テストとして活用しています。その他、monoxerは学校の試験形式や本人の能力や意欲に合わせて細かい調整が可能なところが重宝しています。ある生徒様は、「通学時間の電車の中でゲームをして、区切りの良い時間で終わると何分か残って、その残りの何分かで勉強するのにmonoxerはちょうどいい」とのことでした。スキマ時間の活用については昔から言われていますが、常にケータイの誘惑が忍び寄る中、勉強を継続するための習慣づくりは難しいと常々思わされます。
工場にロボットが導入されて工程の一部が自動化されても、ロボットの導入や設定、再調整などの仕事が新しく出現しました。それと同じように、家庭教師が生徒様の状態に合わせて、新しいテクノロジーを導入していく未来はありうるのではないでしょうか?
まとめ
AIの導入が進むにつれて、教育も、そして家庭教師業も大きな変化を受けることが予想されます。しかし、ニーズに応じたベストなものを提供して、第一志望校に合格するという根幹に変わりはありません。EmersonとMonoxerという二つのEdTechを通して、現在進行中の個別指導の在り方を紹介しました。AIは導入するだけではその力が十分に発揮されず、活用には調整が必要です。家庭教師がこうした業務の一旦を担うことになるのではないでしょうか。